TS転生オリ主、シンオウ地方でニンジン農家始めました。
6.探索! 森の洋館
「やあイクハちゃん!」
「? あ、どうもナタネさん。お久しぶりです」
ある日の昼下がり、キャロップ農場にハクタイシティのジムリーダー、ナタネが訪ねてきた。
明るい茶髪……というかオレンジ色の髪に、緑のケープ。驚くことに夏冬問わず腹出しスタイルの彼女は、草タイプのポケモンを熱烈に愛するジムリーダーだ。
またゴーストタイプ(というかホラー)がすこぶる苦手で、前に切り株のようなポケモン「ボクレー」やジャックオーランタンみたいな「バケッチャ」といった草/ゴーストのポケモンとの付き合い方について相談を受けたこともある。
「相変わらず不器用な堅っ苦しさだね!」
「あはは……ほっといてください。それで、どうしたんですか?」
苦手な女っぽい喋り方をごまかすための敬語だ。どうしても不自然になってしまう。
さて、本題に入るとナタネさんは苦い表情になった。
「あのさイクハちゃん……」
「な、なんですか……」
「いっしょーのおねがい!」
ナタネは突然跪き、額を振り下ろして地面に伏せた!
つまり、土下座だ。
「ちょっ、やめてくださいよ!? なんですか急に!?」
おいおいおい、天下のジムリーダーを土下座させてるところなんて誰かに見られたら、キャロップ農場に悪評が流れるかもしれない!
「土下座はいいから、先に事情を話してください!」
「そ、そう……?」
そうだ。忘れてたわけじゃないが、彼女はどこか猪突猛進というか、たまにとんでもない事をしでかす人だった。
「実はね……」
ナタネは膝と髪についた草を払いながら事情を話し始めた。
なんでもハクタイシティの管轄であるハクタイの森……その奥にひっそりとたたずむ古びた洋館。
そこで幽霊の目撃情報が絶えないらしく、ハクタイシティのジムリーダーであるナタネに調査の懇願が集まったらしい。
……って。
「またですか……?」
「またなのよ……」
というのも、ハクタイの森の洋館での幽霊目撃情報は昔からずっと絶えることなくあり、数年に一度調査され、「ゴーストタイプのポケモンの仕業だった」と結論付けられる。それがお決まりなのである。
実は数年前、俺がポケモントレーナーとして旅をしていた時、ナタネに調査を頼まれて行ったことがあるのだ。
あれはそう、ナタネにジムで勝利した後のことだった……。
「おねがい! 私の代わりに調査してきてくれないかな! 私ジムの仕事で忙しくて……」
「いいですけど……本当は怖いんじゃなくて?」
「そそそ、そんな訳ないじゃない! 私は天下のジムリーダーよ!」
「はいはい、わかりましたよー」
「あ、絶対信じてないわね! ……まあいいわ。私はここで待ってるから、よろしくね」
「はい」
たまたま入ったハクタイの森の、洋館の前でナタネの見送りを受けながら、俺はトレーナーとして最初に捕まえたポケモン、ムックルの進化系、ムクバードのむったんの居合切りで細い木を切り開きながら洋館へと進んでいった。
「むぅ、なかなかに雰囲気あるなぁ」
イキって来たはいいけど、意外と不気味だ。
森の洋館か……もう10年以上も前の前世の、しかもゲームの記憶だ。ぶっちゃけホラースポットで、ロトムや森の羊羹が手に入ることくらいしか覚えてない。
その森の洋館だが、建物は木造で、ところどころ窓はひび割れ、外壁には蔦が伝っている。
「ってかドア開いてんの……?」
開いてなかったら即行帰ろう。そう胸に決めて、俺は重厚そうな赤い扉に手をかけた。
──扉は、見た目に反して意外と軽く、すんなりと開いてしまった。
まるで来るものを拒まない……獲物を招き寄せるかのように。
「うぅ……開いちゃった……」
開いてしまったならしょうがない。一度引き受けたことだし、行けるところまで行ってみるしかあるまい。
俺は勇気を振り絞って、くたびれた館へと足を踏み入れた。
(後編へ続く)