TS転生オリ主、シンオウ地方でニンジン農家始めました。
4.ミミちゃんとの出会い
さて、そうして過ごしている内に、気付けば俺の誕生日がやってきた。
五歳の誕生日だ。
と、それまでは記憶が戻る前から使ってた一人称「イクハ」もやめて、心の中では前世のように「俺」と言うようにした。
いい歳して一人称が自分の名前とかイタいし。
人と話すときはできるだけ一人称を使わないようにしてるけど、どうしても使わざるを得ない時は私と言うことにした。
ちなみに今は園児だ。コトブキ保育園で、友達のモモちゃんとツバサくんと絵を描いたり、おままごとをして過ごしている。
「イクハちゃん、おたんじょうび、あしただよね?」
「うん」
「あしたはほいくえんないから、きょうプレゼントあげるぜ!」
「ほんと?」
おお、なんていい子たちなんだ。普通にうれしい。
まずはツバサくん。
「オリガミでつくったんだ!」
と言って手渡してくれたのは、兜。うん。小さすぎて被れないな。
しかし、やはりチョイスが男の子。ホッとする。
「ありがとうツバサくん!」
「うん!」
あー、曇りのないいい笑顔。とっても可愛らしい子だが、こうみえて、将来俺とモモちゃん、両方と結婚すると言っているなかなかのプレイボーイだ。
ちなみにこの世界(シンオウ地方)は一夫多妻制ではない。
続いてモモちゃん。可愛らしいハートのシールだ。
「わ、わぁ……ありがとう」
正直メンタルが男なので、こう可愛らしいものには精神がゴリゴリ削られるのだが、大事な友達からのプレゼントだ。笑顔で受け取る。
「どういたしまして! これ、モンスターボールにはれるやつなんだって!」
「シール……ああ」
そういえばそんなものあったな。
ボールカプセル。モンスターボールに被せるカプセルで、その上に専用のシールを張ると、ポケモンを出したときに特殊なエフェクトが出る、なかなかにイカしたアイテムだ。
てか、これって結構高価なものなのでは?
「いつかポケモンもらったら、つけてね!」
「う、うん。つけるね」
あはは、ポケモンを捕まえれるのは十歳からだし、それまでなくさないように大事なもの入れに入れておかないとな。
そう、思っていたのだが。
翌日。
「おはようイクハ。お誕生日おめでとう!」
「おはようママ。ありがとう!」
「おはようイクハ。誕生日おめでとう」
「おはようパパ。ありがとう!」
ニッコニコ顔で、近寄ってくるママとパパ。
挨拶をすると、ママはリボンでラッピングされた、正方形の箱を出してきた。
それからパパも。
「さあイクハ、お誕生日プレゼントよ?」
「ありがとう! ……あけてもいい?」
「もちろん!」
「ははっ、きっとびっくりするぞ~?」
おお、ずいぶんとハードルを上げていくな。なんだろう? ポケッチとか?
リボンをほどき、不器用に包装紙を破いて、箱だけにする。
それをゆっくり開けると……。
「え」
中に入っていたのは、赤いボール。
取り出してみると、赤いのは上半分で、下半分は白色だ。
その境界線は黒く、真ん中にボタンが飛び出ている。
「え」
これって、まさか、もしかしなくても、モンスターボール?
え、でも、モンスターボールでポケモンを捕まえたりできるのは十歳、ポケモン捕獲資格を得てからのはず。
……脱法で捕まえろと? まさか!
「イクハ、そのボタンを押してごらん?」
って、ことは、まさか……。
恐る恐るボールの中央のボタンを押すと、パカンッ! と勢いよくボールが開き、中から閃光とともに何かが飛び出してきた!
ちなみに、ボールが勢いよく開いたことに驚いて思いっきり肩をビクリとさせてしまった。
両親の微笑まし気な視線が痛い。
そうして出てきたのは、通常は薄黄色の部分がピンクのモコモコとした毛と、茶色い短めのサラサラとした毛におおわれた、ウサギ型のポケモン。
「み、ミミロル……?」
「ロルッ」
「えっ、しかもいろちがい?」
「ロルゥ?」
「うぇ、うぇぇっ!?」
「あはははっ」
思わず漏れた声がへんてこで、パパが笑った。いやでもだってさ、ポケモンだぜ? 動くぬいぐるみじゃないんだぜ?
あくまで架空の存在だったポケモンが、今こうして目の前に「キミのポケモンだよ」っているんだぜ!?
しかもあろうことか色違い!! 興奮せざるを得ないでしょ!?
「せっかくだから、ニックネームをつけたら?」
「う、うん!」
ニックネーム、どうしようか……。
「ルゥ??」
つぶらなお目々がかわいい……メメ? いや、やっぱりこの耳でしょ!
「ミミちゃん! キミは今日からミミちゃんだ!」
「ミミミミロォルゥ!」
「おお、気に入ったみたいだな」
「イクハ、ちゃんとお世話するのよ?」
「はい!」
するする! するに決まってる!
そっと手を両腕を広げる……と、ミミちゃんはピョコンっと飛び込んできた!
うへぇ……かわいい。モフモフだ……。
「パパからはボールカプセルだ」
「パパったら、昨日イクハがシールもらったからって、仕事の帰りに急いでナギサシティまで買いに行ってたのよ?」
「わ、ありがとう……!」
だから昨日遅かったのか!
さっそく受け取ったボールカプセルをミミロルのモンスターボールに嵌め、昨日モモちゃんからもらったピンクのハートのシールを貼る。
可愛らしいことこの上ないが、ミミちゃんをもらったテンションで全く気にならない。むしろ色違いであるミミちゃんの耳の色と同じで、ぴったりのシールなのではないだろうか。
そして改めて、ミミちゃんと向かい合う。
「これからよろしくね、ミミちゃん!」
「ミィ?!」
これが、俺とミミちゃんの出会いだ。
保育園への道中以外は、寝るときもボールから出して一緒に過ごした。
正直この頃は、四六時中本当にただの五歳児のように浮かれてた気がする。
いや、むしろ前世からの憧れの分、一層幼児帰り(?)してたかも知れない。
だからか、可愛い恰好は避けたいと思っていたのに、ミミちゃんが喜ぶからと高めのツインテールにして貰うようになったのも致し方なのないことだろう。
「あの、ママ……」
「はいはい、今日もミミちゃんとお揃いの髪型ね~」
「うん、お願い……」
いやでも頼むときは羞恥で顔真っ赤だわ!
そうしてミミちゃんと過ごす中で、ミミちゃんの好きな食べ物を探したりして……後に俺はガラル地方のとある地域で採れる「ニンジン」を知ることになる。
さらには、前世でやったゲームと同じように、ガラル地方ではカレー作りが盛んらしいという情報を得た俺は、
発明したトースターを売るために一日二食から三食へ世間の風習を替えたエジソンのように、
カレーをシンオウ地方でも流行らせて、そこに必需食材であるニンジンを作って売り込もうと考えたのだ。
ポケモントレーナーとしてシンオウ地方をぐるりと回る中で幾度となくカレーを作り、たまたま出会った人に振る舞ったりして、約一年でカレーを広める下地を作ったのだ。
そして旅を終え、母方のおばあちゃんの知り合いで、農家をやめた人から格安で畑跡を買い取り、ニンジン農家を始めたのだった。
「──って感じですね」
「なるほど……いやぁ、なかなか策士ですね! ニンジンを売るためにカレーを流行らせるだなんて! 実は私も最近、カレーにハマってまして」
「そうなんですか?」
「カミさんが作ってくれるんですが、なまら美味いですよ! それもこれもイクハさんのおかげだったとは……ありがたやありがたや」
「あ、あはは……」
なかなかにオーバーアクションな人だ。
でも、そのおかげでこちらも緊張せずにスラスラと喋れてる気もするし、新聞記者の技なのかも。
「いやぁ、今日はありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそどうもありがとうございました」
「今日取材させてもらった内容は、来週のコラムに掲載しますんで、よかったら読んでみてください」
「あ、はい。楽しみにしてます」
そんな感じで、記者の人は帰っていった。
一週間後、朝にポストに入れられた新聞を、皆でお昼を食べながら開くと。
『今話題のカレーを伝えた「カレーの伝道者!」その正体はニンジン農家!?』
と、デカデカとしたタイトルが目に飛び込んできて、思わず気恥ずかしくなって俯くのだった。