TS転生オリ主、シンオウ地方でニンジン農家始めました。
2.二日目
ニンジン収穫二日目。収穫は午後に行う。 午前中は、昨日収穫したニンジンの洗浄・選別・パック詰め作業がある。 まずは洗浄。土を落とす。専用の機械や、水鉄砲が使えるポケモンがいれば楽だったんだろうけど、残念ながらないものはない。なのでホースで水をかけながら、手作業で洗っていく。 この作業は俺一人だ。 ポケモン達はほら、手がなかったり、毛がフサフサで水とかドロがかかったら後から大変になったりするからな。 できればガブリアスのガブさんに手伝ってほしいが……舐められているので言うことを聞いてもらえない。 この時、洗ってる時点で明らかに傷んでたり、規格外のものはこの時点で弾いてしまう。 次に選別作業。キレイなオレンジ色になったニンジンを、L・M・Sと規格外の全部で4つのダンボールに振り分けていく。 この作業は、ルカリオのリオ、ムウマージのメアにやってもらう。 ちなみにムウマージは手こそないが、ポルターガイスト(サイコキネシス)でニンジンを浮かせて作業してくれる。 それと並行してするのがパック詰めの作業。これはぶっちゃけ指がある俺にしかできない仕事だ。 LMSで一セット。パックに詰めて、挟んでスライドして熱で袋の口を閉めるやつで閉じていく。 「L……L……S……M……M……M……ん、これちょっと小さすぎるし、規格外な」 『わかった』 「ムァア~」 それが終わったら、今度は「カットニンジン」を作る。さっきまでのが普通にスーパーなどに卸す用で、今度のはワイルドエリア(と勝手に呼んでいる、広大なシンオウの大地によくある半ば未開の地)にいる移動販売業者に卸す用だ。 かつてシンオウ地方を旅していた時に、このカレー作りを広めておいたおかげで、今ではシンオウ地方でもカレー作りが盛んにおこなわれるようになった。 それに伴い、傷薬やきのみ、モンスターボールなどを移動販売する業者が、カレーの具材も取り扱うようになったのだ。確か前世でやっていたゲームにそんな職業はなかったはずだけど、その辺がゲームと現実の違いなのだろう。 当たり前だけど、各町、街はゲームからじゃ想像できないほど広くて立派だし、ゲーム内には実装されていなかった職業や施設、売り物もたくさんある。 っていうか、フタバタウンの主人公の家なんか、ゲームだとリビングキッチンと主人公の部屋しかないぞ。実際の家でそんなことはあり得ないわけで、全てにおいてスケールアップしている。 脱線した。カットニンジンの話に戻ろう。 このカットニンジンのポイントは、袋から直接鍋に入れるだけですむところだ。 そのため、皮をむいて、切って、さらに洗浄してパック詰めすることになる。 皮むきとカット作業は、やはりポケモンが強い。 メアのシャドークローや、技じゃなくても素の身体能力で切ったり。 俺がピューラーや包丁で作業するよりも圧倒的に早い。 そうして黙々と作業していると……。 「ミミッ」 「ん?」 突然、ダンボールからウサ耳が生えた。 「ルオッ」 「ミミィー!?」 ポケモンの言語で何かを言いながら、リオがそれをつまみ上げる──と、正体がミミロルであることがわかった。 最初は昨日のミミロルがまた来たのかと思ったけど、よく見ると昨日のとは顔立ちが違うような……。 「お前……昨日のやつじゃないな」 「ロォルゥッ!」 ふむ。昨日に引き続き、ニンジンの魔力に引き寄せられてまたミミロルが釣れたようだ。 さらに……。 ガサガサッ ヒョコッ 「ルルルッ!」 ヒョコッ 「ミ?」 ヒョコッ 「ミミッ!」 草むらから三体のミミロル達が飛び出してきた! ……内、最初に顔を出したのは昨日のミミロルだった。 「まさかお前……連れてきたのか……?」 「ロォルゥ?♪」 そう言って(?)ぴょんぴょこ跳ねるミミロル。 正解らしい。 「はぁぁ、参ったなぁ。あげれるのはこれだけだからな?」 傷んでたり、裂けてたり、虫ポケモンに噛まれていたり、小さかったり、極端に大きかったり。 様々な理由で「規格外」となったニンジン達が入ったダンボールを叩く。 うーん、もしこれから先も増えるんなら、なんか作を考えないとなぁ。 規格外のやつも、近所におすそ分けしたり、自分達で食べたりするつもりだから、そんなにそんなには用意できないぞ…… 。 ひとまず規格外のニンジンをあげて、満足してもらう。 ……よかった。まだ結構残ってる。 それから午前の仕事を終わらせて、お昼にカレーを作ってみんなで食べる。 名付けてとってもニンジンカレー! 見てわかるほどゴロゴロとニンジンが入っているのはもちろん、すりおろしたニンジンペーストが入ってるから、ルーに甘みが出る。 味は甘口だ。前世では普通に辛口食べてたはずだけど、転生してからは甘党になったようだ。 「みんなー、もどっておいでー!」 声をかけると、すぐにみんな集まってきた。と言っても、カレーの匂いに誘われて遊びを中断して今かいまかと待ち構えていたんだけど。 「さ、食べよっか」 異口同音……異音。声を揃えて『いただきます』。 こればっかりはガブさんにもキッチリさせてる。 そうしてカレーを食べて、洗い物をして、ちょっと休憩して。 「よーし、午後の仕事するぞー」 『ああ』 「ミロォ?」 「ムァ~ン」 ガブさんが言う事を聞かないのはいつものことなので放っておいて。 ぷわちゃんはなぁ、本人はヤル気満々なんだけど、いかんせん力が弱いというか、浮力が弱いというか。 ニンジン一本持ち上げて運ぶくらいならできるけど、土にしっかり埋まったニンジンを引っこ抜くまでの浮力はない。 なので見回り(散歩)を頼んである。 フワライドにしたら空を飛ぶも覚えるし、浮力も上がるしいいんだろうけど、この風船感が良いんだよなぁ……。 それはさておき、四体に手伝ってもらいながらニンジンを収穫していると、先ほどの四体のミミロル達が台車に入れられていくニンジンを覗き込んでいる。 さっきたらふく食べたからか手は出さなさそうなので、放っておく。 しばらく黙々と作業していると。 「わー! ポケモンさんだぁ~!」 「ミミロルっていうんだぞ!」 「へぇぇ! ミミロルちゃーん!」 農場のフェンスから顔をのぞかせる園児達。十人くらいかな、先生たちに連れられて午後の散歩をしているようだ。 「可愛らしいですね!」 「ありがとうございます。でも別に私のポケモンって訳じゃないんですけど……ニンジンにつられて来たみたいで」 先生の一人が話しかけてきたので、十数年の女生活で身につけた余所行きの口調で返す。 ミミロル達も自分のことを言われてると分かるのか、フェンスの方へはねて行く。 一応、わざとでないにしても怪我をさせてしまうかもしれない。どんなに可愛らしくても、人と比べると力があったり、毒があったりするのがポケモンだ。 万が一のことがないよう、ルカリオに付いて行って貰う。 「かわいい?!」 「ふわふわぁ!」 「ミミミミロォルゥ!」 キャッキャと戯れる園児とミミロル達。 なかなかに微笑ましい光景だ。まるで動物園のふれあい広場のようだ。 「……ん?」 ふれあい広場。前世の動物園にあった、羊やウサギなど比較的大人しい動物と触れ合うことができる体験スペースだ。 場所によってはエサを販売して、エサやり体験なんかもできたはずだ。 「ふむ」 餌やり体験か……。もしかすると、ソノオタウンに新しい名物ができるかもしれないぞ? あ、それから……。 それから一週間後、敷地の隅では半野生のミミロル達と触れ合い、餌をあげる子供たちの姿があった。 ちなみに紙コップに入ったニンジンスティックは百円、ポフィンは二百円だ。 さらに畑の一画では、ニンジン収穫体験をする親子数組の姿があった。 ちなみに自分で収穫したニンジンは、百グラム百円で持って帰るか、追加プランで体験できるカレー作りの材料にすることもできる。 なかなかがめついと思われそうだが、単純な原価では計算できない損得があるからな。 こっちも生活がかかってる以上、赤字でやっていくわけには行かないのだ。 さてはて、万が一のことがないようにガブリアス以外のポケーモンを総動員して見守り体制を引いているけど、なかなかに微笑ましい光景だ。 シンオウ地方に新しいムーブメントが来たのではないだろうか。 そうそう。農場の名前を言ってなかったな。 ここは「イクハのキャロップ農場」! シンオウ地方でニンジン農家始めました!
