強制女装っ娘の受難~天然人たらし親友にはたらされないからな!~
4.4話
【あらすじ】 女装をして、幸治のストーカー事件を解決することに成功した宇佐見晴樹。しかしその帰り、ばったりと会った幸治の妹、愛奈に正体がばれてしまう。 月曜日の放課後、幸治ハーレムの同盟の会合に参加することになった晴樹だったが……。 【登場人物】 ・宇佐美 晴樹 主人公。天然たらしの親友をに巻き込まれて焦っている。 お弁当は小さめ女子サイズ。 ・瀬戸 幸治 親友。本人にたらしてるつもりはないが、気付いたら女子に囲まれている。周りを心配させがち。 ・瀬戸 愛奈 たらされた義妹。一年生。 思い込みが激しいタイプ。 ・椎名 美琴 容姿端麗、才色兼備。才女な生徒会長。三年生。 与えられた情報を鵜呑みにしない。 【本編】 月曜日。午前の授業を終えた俺は、大急ぎで弁当を持って教室を出た。 例の話し合いは放課後に執り行われるらしいけど、幸治ハーレムのメンバーはいつも幸治と共に昼食を取るから、あのまま教室にいたら絶対に巻き込まれる。 どの道放課後には地獄を見ることにはなるだろうけど、自分から拷問を受けるつもりは全くない。 俺はあの二人がいないか注意深く見渡しながら、談話室へ向かった。 授業が終わってすぐに来たというのに、すでに結構人が入っていてガヤガヤ騒がしい。 だいたいが二人以上のグループなので居心地は悪いが、幸治ハーレムの中で食べるよりは居心地いいだろう。 さっそく空いている席に座り、弁当を広げる。 うーむ、いつものおかずたちだ。 ごはんに卵焼き、ウィンナー、冷凍のブロッコリー(オンザマヨネーズ)。 そしてこちらは日によって違うおかずで、今日はほうれん草とベーコンのバター炒めだ。 そういえば、とおかずに箸を伸ばしながら思い返す。 小さいころ、お弁当がたまにしかなかったころは、エビフライだの、カクショクパンマンのポテトリングだの、うずらのベーコン巻きだのあって好きだったなぁ。 こうして毎日お弁当が必要になってからは、いかに手軽に色味と栄養のバランスがよくなるか、という観点で作られるようになって、手のかかるおかずはなくなったな……。 たまには自分で作って好きなおかずを入れようか……。 それもこれも単なる現実逃避に過ぎず、午後の授業は眠りの魔法使いが行う数学と、異世界の言語を扱う英語だ。 全高校生が苦手とする科目第一、二位の科目(当社調べ)が連続して、終わっても地獄(はなしあい)が待っているなんて……うぅ、帰っていい? 「小さくて可愛らしいお弁当ね」 「へ?」 俺が辛い現実に打ちのめされていると、隣の席に女子生徒が座って話しかけてきた。 ……椎名美琴。私立常夏高校三年、生徒会長を務める彼女は、幸治ハーレムの一人だ。 「な、なんでここに……!?」 「なんでって……私がここで食べちゃだめなの?」 そう言って真っ直ぐな黒い髪を揺らしながら首を傾げる彼女は、なんてこともないようにお弁当を食べ始めた。 相変わらず背筋をしゃんと伸ばし、綺麗な所作で食事をとる彼女に目を奪われていると、椎名先輩はゴクリ、と口の中のものを飲み込むと話し始めた。 「まあ、正直なことを話すと、宇佐美くんの真意が知りたかったのよ。愛奈さんの話だけじゃ、不明な点が多かったし。放課後に話し合う前に、事実確認をしたかったの」 「な、なるほど……」 どうやら学校一の才女である椎名先輩は、あの話を鵜呑みにしなかったようだ。 これはチャンスだ。この機会を逃せば、俺の平和な日常は終わりを告げることとなる。 ……しかし、果たして全部話してしまっていいのだろうか。 ストーカーも大したことなかったし、もう終わった話だから話してもよさそうだけど、一応幸治が内緒にしていたことだ。 「……どうしたの? もしかして本当にやましいことがあるとか?」 「そ、そんなことないです!!」 あー、どうしよう。面倒くさいし全部話してしまってはダメだろうか。 この場に幸治がいたら話していいか確認もできるが、あいつはいつも通り教室で食べてるだろうし。 ぐぬぬ、とりあえずストーカーの件はボカしておいて、あとで幸治から話していいと言われたら話そう。 「考えはまとまった?」 「はい。そうですね……実は幸治のやつ、面倒くさいことに巻き込まれたんですよ」 「それって……?」 「あいつが内緒にしてることなんで、俺からは……でも、別にやましいことでもないし、そんな危険なことでもないんです」 「ふーん……」 ううん、こう言ってしまうとある程度のことを察せられそうだ。椎名先輩は頭の回転がいいから、一を聞くと十を知ってしまう人だ。 「で、その問題を解決するために女装して幸治に一日付き合ったんです」 「なるほどね……まあ大体想定してたとおりね」 「マジですか」 すげえ、これが才女か……。 話しながらもお弁当を食べ終えたが、椎名先輩は少し何かを考えこんでいる。 「んー、今日の放課後はどうするつもり?」 「まあ誤解を解いて終わりにするつもりですけど……」 「そう……わかったわ。もしものことがあったら口添えしてあげる」 「椎名先輩……!」 なんていい人なのだろう。 そして、幸治のやつよりよっぽど頼りになる。 あいつもいざというときは頼りになるけど、普段は無駄にたらしてくるだけだからなぁ。 椎名先輩は長い黒髪をシャラリと揺らしながら立ち上がると、ではまた放課後。と言って立ち去って行った。 俺もお弁当を持って、談話室を後にした。 そして午前中までとは違い清々しい気持ちで苦行の授業を受けきり、とうとう放課後となった。 幸い掃除当番ではなかったので、カバンを持ってそそくさと教室を出る。 と、そこで幸治に声をかける。 「おい幸治」 「なんだ?」 俺は、ストーカーの件を椎名先輩と愛奈ちゃんに話していいか尋ねた。 「あー、いや、できれば隠しておいてほしい」 「はぁ? どうして」 大したことにはならなかったのだし、話してしまっていいのではないか。それに、事情を話したほうが俺の身の潔白を証明しやすくなる。 「もし事情を話したら、どうして自分たちを頼らなかったのかって問い詰められるだろうし……」 「んー、俺を説得するときに言ってたことをそのまま言えば良いじゃないか」 特にやましい事情もないのだし、なにかためらう理由でもあるのだろうか。 「いや、それで事情を話したら、怒られるだろうしな……前にもこんなことがって、「もっと頼って」とか言われたし」 「前科があるのか……」 なんか幸治の自業自得な気もしないでもないが、ううん、そうだなぁ。 「もしそれで修羅場になりかけたら言うからな?」 「ああ、かまわない。ごめんな、こんなことまで巻き込んで……ちゃんと埋め合わせはするから!」 「まあ毒を食らわば皿までって言うし。埋め合わせは楽しみにしてるわ」 「おう!」 そうして俺は幸治と別れると、幸治のハーレム同盟の会議が行われる空き教室へと向かった。 「来ましたね……」 俺が指定された空き教室に着いた時には、すでに椎名先輩と愛奈ちゃんは来ていた。 別に時間まで指定されていたわけではないが、なんとなく申し訳ないような気分になって「遅れてすいません」と謝ってしまう。 もっとも二人とも全然気にしていないようで、それよりも早く席に座れと言わんばかりだ。 そそくさと椅子に座ると、では、と愛奈ちゃんが切り出した。 「まずは宇佐見晴樹さん……いえ、晴香さん。幸治恋人候補同盟への参加を歓迎します。最初は恒例の『出会いと惹かれたきっかけ』から────」 「ちょちょちょ、ちょっと待った!」 俺が一言も話す暇もなく、いきなり会合が始まってビビった。 とりあえず俺は誤解を解くために必死に割り込む。 「なんですか?」 「ええと、その件についてなんだけど、愛奈ちゃんは色々誤解してる!」 「誤解、ですか……?」 とまあ、色々言いたいことはあるが、一つ気になっていたことを尋ねてみることにする。 「あのさ、あんまりにすんなり参加させられたから言い出せなかったんだけど、俺男だぞ? なんで普通に幸治のハーレムに入る流れになってるんだ? 愛奈ちゃんはそういうのに抵抗ないのか?」 「ふむ、そのことですか」 なんだそんなことか、とばかりに愛奈ちゃんは話し始めた。 「まず、今の時代同性愛なんかは当たり前になりつつありますし、その点で言えば、幸治お兄ちゃんは男女問わず優しいですし、以前から警戒はしてました。 それになにより……晴香さんのあの姿を見るかぎり、十分ライバルに値すると判断せざるを得ないですし」 「あの、愛奈さん……そんなに凄かったの?」 と、そこで椎名先輩が話に割り込んだ。 愛奈ちゃんは「それはもう! 見ます?」と言ってスマホを起動させると、その画面を椎名先輩に見せた。 画面には、女装している俺が幸治と歩く姿が映っていた。 って、いつの間に撮られたんだ……盗撮では? 戦々恐々としている俺をよそに、写真を見た椎名先輩は目を見開き、画面と俺を交互に見比べると「なるほどね……」と腕を組んで渋い顔をした。 「てか、晴香さん……晴樹さんって、もしかしてそういう人だったりするのかしら……?」 「はい?」 そういう人って……話の流れ的に心が女とか、そういうことを訊きたいのだろう。 「いやいやいや、そんなわけない!」 「でも、先日見たとき……あまりにこう、立ち振る舞いというか、オーラというか、すごく普通に女でしたし……」 「そ、それはだな! てか、それも含めて愛奈ちゃんは色々誤解してるんだよ。今日はそれを解きに来たんだ」 俺はそこから、昼休みに椎名先輩にしたのと同じ説明を愛奈ちゃんにも一つずつしていった。 女装していた時の立ち振る舞いも、クラスメイトの女子の協力もあってなんとか演技していたにすぎないのだとも。 後半の部分については首をかしげていたが、ひとまずは納得してくれたようだった。 「……じゃあ、本当にデートしてたとか……恋心があるとか、普段から女装してるわけじゃないんですか?」 「そうそう。全部誤解だ。女装に至ってはあの日が初めてだしな」 「なんだぁ……それならそうと最初に言ってくれればよかったのに」 「幸治のやつがあえて言わなかったことだからなぁ……やましいことでもないのに、それを俺が言うのもおかしな話だろ?」 「むむむ、それならいっそう、その事件について知りたくなりました」 「それは幸治に直接交渉してくれ……」 そんなこんなで話は纏まり、話も終わりムードに包まれた。 そろそろ帰れるかなぁ……そう思っていた時だ。 椎名先輩が唐突に切り出してきた。 「ねえ、宇佐見くん」 「はい?」 「私にも見せてくれないかしら?」 「え?」 何を……? そう訊く前に、椎名先輩は興味深そうな顔でその名を口にした。 「私も会ってみたいもの。晴香さんに」 爆弾が落とされた。
