強制女装っ娘の受難~天然人たらし親友にはたらされないからな!~

5.5話

【あらすじ】
幸治の妹、愛奈と、生徒会長の椎名に正体がばれてしまった晴樹。
幸治ハーレムの同盟の会合に参加し、何とか誤解を解くことに成功した晴樹だったが……。



【登場人物】
・宇佐美 晴樹
主人公。天然たらしの親友をに巻き込まれて焦っている。
晴樹の時は三浦、晴香の時は綾香と呼ぶ。
・瀬戸 幸治
親友。本人にたらしてるつもりはないが、気付いたら女子に囲まれている。今回空気。
・瀬戸 愛奈
たらされた義妹。一年生。
女装とかBLとか女体化とか好きなオタク。
・椎名 美琴
容姿端麗、才色兼備。才女な生徒会長。三年生。
将来は医者を目指しているらしく、ちょっと小難しい病名とかを知っている。
・三浦 綾香
晴樹を喜々として女装させたクラスメイト。
晴香のことは女友達だと思っているが、晴樹のことは手間のかかる弟のように思っている。



【本編】

 椎名先輩によって爆弾が落とされた月曜日から二日開き、木曜日の放課後。
 俺、幸治、愛奈ちゃん、椎名先輩、それから三浦の五人は、椎名先輩の家に招かれていた。

「おじゃまします……わぁ、広い……」

 思わず呟いた三浦は悪くないと思う。
 別に広大な敷地があるとか、屋敷が経っているとか、そういうわけではないんだけど、白で統一された壁に、大理石か何かの床。しかもよく見ると、階段の手すりとかも細かい装飾がされている。
 調度品も高そうだし、どれも埃一つ被っていない。

 そして三浦が言った通り広い。玄関も広ければ廊下も広い。
 一言で言えばお金持ちの家だった。

 五人でずらずらと歩いていき、椎名先輩の私室と思わしき部屋に瀬戸兄妹を先に案内し、俺と三浦は別室に案内された。

「じゃあ私は二人のところに先に行ってるら、終わったら来てちょうだい」
「は、はい……」
「わかりました」

 何だか委縮してしまっている俺とは違い、三浦は平然とした様子で応える。
 というか俺の場合、これから改めて女装姿を晒さねばならないということに緊張しているのもある。

「三浦はいいよな……矢面に立つ訳じゃないから……」

 椎名先輩を見送り、俺がそう泣き言を漏らすと、三浦はニヤニヤとしながら突いてきた。

「あら? 綾香って呼んでくれないの?」
「ばっ、それはあれだ! その、女装してるとき限定だ!」
「なんだ、その格好の時でも気にしないのに」

 いいように揶揄われているが、幸治と違いモテたことのない俺に対抗する術はない。
 憮然としながら、じゃあ着替えるから廊下で待っててくれ、と部屋に入った。

 服装はもちろん前回と同じ、ガウチョパンツコーデだ。
 女装なんてあの時だけのつもりだったから他には買っていないし、処分に困った挙句、洗濯もしないでクローゼットの奥に封印しておいたのだが……まさかこんなにも早く再び日の目を浴びることになるとは、こいつも思っていなかっただろう。

 すこし感慨深くなりながら手に取った服に袖を通していく。
 一応昨日の内に消臭スプレーをかけておいたから、良い香りがする。

 特別難しい構造をしているわけでもないので、ササっと着替えて三浦を呼ぶ。

「さてはて、今日はせっかく時間もあることだし、ちょっとレクチャーしながらメイクしていくわね」
「いや、いらないけど……」
「いいからいいから。今の時代メンズメイクとかも当たり前になってきてる時代だし、覚えておいて損はないわよ」

 そ、そういうものなのか……。
 でもモテる幸治ですらそんなことをしている様子はないけど……。

 少し納得いかないながらも、話半分に解説を聞きながら化粧を施されていく。

「BBクリームを塗った後、その上にファンデーションを塗って……」

 化粧と言ったら口紅を引くとか、スポンジみたいなので粉を肌にポンポンするような何となくのイメージしかなったが、こうして聞くと意外と分かりやすいというか、単純だなと感じた。
 なんというか、中学の頃に授業でやった油絵と同じ感じだ。

 油絵はまずキャンバスに下地となる色を塗って、その上に色を塗り、乾いたらさらにその上に絵の具を重ねていくのだ。
 化粧も、化粧下地を塗って肌の凸凹をなくして、その上にチークを叩いて血色を良くしたりするようだ。

「なんか、思ってたより簡単だな?」
「まあ、晴樹くんでもすぐできるように簡単なメイク法にしてるからね」
「なるほど……」
「見た目は完璧だし、後は声かな~?」

 なんだ、後はって。これから先も女装をさせる気か。
 鏡越しに三浦を睨みつけると、平気そうな顔をしてこわーいと言う。

「だってさー、せっかくこんな可愛いんだし、一緒に遊びに行ったりしたいじゃん。それにこうして女子のあれこれを教えた弟子みたいな存在だし? これからも色々教えていきたいじゃん。それと面白いし」
「最後本音出てるぞ?」

 そんなこんなでメイクが終わった訳だが、なんと今回のメイク道具は「女装姿が見たいと言ったのは私なので」と椎名先輩がお金を出したらしい。
 と言っても、近所のドラッグストアでそろえた安いものらしいが、そういうわけで道具はすべて記念にと渡された。

 いらねぇ……。
 もちろん断ったが、いからいいからと、これまたドラッグストアで買ったというメイクポーチごと押し渡されてしまった。

「さて、そろそろ切り替えていきましょ。前回と違って動作がまだ男のまんまだよ」
「えぇー……」

 気乗りはしないが、中途半端な状態を見せる方が恥ずかしい。
 仕方がないので、心の中で「私は晴香。晴香……」と唱えて意識を切り替えていく。
 もちろん最初は無理やり言い聞かせているだけだが、最中に三浦……綾香と会話を挟むことで自然な状態にしていく。

「……よし、もういける?」
「うん。大丈夫だよ」

 いよいよ覚悟を決めて、私たちはその部屋を出た。



「入るよー」

 先ほど瀬戸兄妹が案内された椎名先輩の私室の前に来た私たち。前を歩いていた綾香がノックをして声をかけた。
 すぐにどうぞーと返事が返ってきて、綾香がドアを開けた。

 綾香が部屋に入って行き、私も特にもったいぶることなく足を踏み入れる。
 とは言え、改めて複数人の知り合いに女装姿を晒すのはなかなかに恥ずかしい所があって、ちょっともじもじししながら「おまたせ」と言って顔を上げた。

「…………」

 すると、なぜか顔を赤くした幸治や、椎名先輩に限らず、一度見たはずの愛奈ちゃんまでが目を丸くしてこっちを見ている。

「な、何か変かな……?」

 なんだか居たたまれなくなって尋ねると、正気に戻ったのか愛奈ちゃんが答えた。

「あ、えーと……こうして目の前でビフォーアフターを見せられると、衝撃が強いというか」
「声以外は本当にまるで別人だしなぁ。っていうか、ぶっちゃけその見た目だと頭がバグって、声まで女子に聞こえてくるというか……」
「声はともかく、喋り方も自然に女子ね……」
「演劇の才能あるんじゃないかなぁ?」


 なんだか凄くべた褒め(?)されているけど、あまり嬉しくない。というより、ぶっちゃけ屈辱だ。
 それから演劇も無理じゃないかな……別に他人を演じているわけではなく、「宇佐美晴樹が女性として生まれてきていたら」という思考に則って動いたり喋ったりしているだけなので、全くの見ず知らずの他人を演じれるとは思わないのだ。

「あの……満足ですか? もう着替えたいんですけど」

 っていうか私は何でクラスメイト(それも女子)の家で女装姿を晒しているのだろう。
 前回も恥ずかしいと言えば恥ずかしかったが、前回はあくまで自分を知る人がいない外での女装だった。
 だから別に女装とばれても「宇佐美晴樹」へのダメージは少ない、という理由から、そこまでの羞恥心は湧いてこなかったのだが、今回は全くの別。

 「宇佐美晴香」を通して、まんま「宇佐美晴樹」を見られるのだ。
 恥ずかしすぎる。

 早く着替えたい。っていうか、帰ったら何としてもこの衣装と化粧品は処分してやる。
 そう思って着替えを懇願したのだが、答えはまさかの、というかやっぱりというか、「NO」だった。

「せっかくだし、帰るまではその格好でいてね」
「ええぇ……」
「私の敵にならないなら、むしろこんなに美味しい話はないです!」

 愛奈ちゃんは何なんだろう、少し変態というか、オタクな一面を持ち合わせているのだろうか。目が輝いている。

「でも凄いんだよ。晴香モードだと女子と触れ合ってもなんも感じないし」
「ほう……?」
「あ、あの綾香? それ今言う必要あったかな?」

 いたずらげな表情を浮かべて秘密(別に秘密にしてとは言ってないけど)を暴露する綾香。
 そして目付きを鋭くするハーレムメンバー二人。
 嫌な予感がする……と、二人から距離を取ろうとしたがすでに遅く。

 ぎゅむっと、柔らかい感覚に包まれた。

「あの……愛奈ちゃん?」
「ふむ……ふむふむ……」

 突然抱き付いて来た愛奈ちゃんは、神妙な顔で私に胸やら何やらを押し付けてくる。
 そして、ある程度ぎゅむぎゅむした後、無言で椎名先輩を呼び、どうぞ、と身振りで伝える。

 え、椎名先輩もやるんすか。
 そう言う暇もなく、抱き付かれた。

 椎名先輩も興味深げにボディータッチを繰り返し、そして満足したのか離れていった。

「あの……今の行動いりました?」
「ええ」
「重要な試験です」

 なぜか二人とも険しい表情を浮かべている。
 あと幸治は顔を赤くしてそっぽを向いているし、綾香は相変わらずニヤニヤしている。
「晴香さん」
「え、はい」

 重々しく、椎名先輩が口を開いた。
 なんだか猛烈に嫌な予感がする。

 椎名先輩は愛奈ちゃんと一瞬アイコンタクトを取り、私に告げた。

「貴女を幸治恋人候補同盟へ招待するわ。というか強制参加よ」
「なんで!?」

 思わず立ち上がってしまった。
 しかし驚いたのは私だけだったようで、幸治も綾香も「やっぱりか~」とでも言いたげに頷いている。

 はぁとため息をついた愛奈ちゃんが忌々しげに告げる。

「晴香さん、ぶっちゃけアウトです。その姿の時は女に反応しないということは、男子に反応してしまう可能性もありますし、そうじゃなくても、そこまで自然に女子女子されると、お兄ちゃんが惑わされる可能性があるので」
「そうですね。と言うかここまで来ると別人格ではないかと疑ってしまうのですが……」

 なにやらえらく失礼なことを言われているな……。

「あの、別にこれから先も女装しようとか思ってないし、男に反応するはずもないし。椎名先輩も椎名先輩ですよ。記憶も意識も連続してますから別人格とかじゃないです」
「いえ、一般的に別人格と言うと記憶も意識もまるごと切り替わるタイプを想像する人が多いでしょうけど、それは憑依型解離性同一性障害と言って、それとは別に意識も記憶も連続した非憑依型解離性同一性障害というのもあるのよ」

 いやそんな専門的なこと言われてもわからんが……。
 私が納得していないことがわかったのだろう。椎名先輩はじゃあ、と話を続けた。

「では、愛奈さんと私に抱きつかれた時、どう感じた?」
「どうって……」

 柔らかい感触は確かに気持ちよかったが、精神的に晴香となっている今だと困惑の方が大きい。多分晴樹の状態だったらそれはもう大喜びした……かどうかはわからないが、どうせなら晴樹の時に抱きついてほしいもんだとは思った。

 まあ、最後の辺りはぼかしたが、その旨を伝えると、やっぱりとため息をつかれた。

「では瀬戸君」
「え、はい」

 急に話を振られるとは思っていなかったのだろう。幸治はビクッとしながら返事をした。いや何自分は関係ねーみたいな顔してんだよ。

「瀬戸君から見てどうだったかしら?」
「すごく……百合でした」
「よね。抱きつきながら表情や筋肉のこわばりを探ってみたけれど、男性の反応はなかったしね」
「えぇ……」

 どうにも納得いかない。確かに男としての反応はしなかったけど、それはあくまで「宇佐美晴香」をエミュレートしていたからに過ぎない。
 どう考えても素は「宇佐美晴樹」であり、その状態であんなことをされたら顔を赤くしてキョドることは目に見えている。

 だと言うのに、結局二人から強引に幸治のハーレム同盟だかなんだかに加入させられてしまったのだった。
 しかし、なんとか説得が功をなしたのか、あくまで女装状態の「宇佐美晴香」が加入したのであって、普段の「宇佐美晴樹」は入らなくてもよい事になった。

 まあその決め手となったのはその後、女装を解いた後に三浦にボディタッチをされて顔を赤くしてしまったからであるが……。
			

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