魔法少女ブルーミングリリィ

第一章

11.スプラウト・アンド・ブルーム! いっけえええ!!

 巨大蜘蛛との戦闘中、突然乱入してきたワゴン車。
 その中から出てきたのは、なんと百合園綺咲。僕の母さんだった。

「え、魔獣対策課? え?」

 どういうこと? 母さんはどこかの会社の事務職に就いてたんじゃなかったの?
 僕が頭をはてなでいっぱいにしていると、母さんは僕の方を見た。

 ……母さんは何かにこらえるように肩を震わせ……そしてギュッと僕を抱き締めた。

「よく頑張ったわね……」
「えっ……」

 ま、まさか僕の正体に気付いてる!? なんで!? 努みたいに変身する所を見られなければ、本人だとわからないはずなのに!

 すると、サンとレインが驚きの声を上げた。

「あれ!? 百合園さんとリリィってよく似ているのね!」
「ほんとう……それにその対面、まさか親子……?」

 ハッと気付く。
 魔力コートで僕とリリィは結びつかないけど、僕とよく似た母さんは、リリィと結び付くんだ。
 第三者から見れば、まるでそっくりな母娘に見えるだろう。

「えぇ……つ、リリィは私の子供よ」
「うひぇー!」
「驚いたわね……」

 僕を置き去りにして、三人は話を進める。

「これから三人に、魔獣対策課で作られた武器を支給するわ」

 母さんは固まったままの僕を放し、ワゴン車から布に包まれた棒状のものと、無骨な銃。それから円い盾を持って来た。

「まずサンにはこれ」

 棒状のものを差し出す。
 サンが受け取り、布を剥がすと、何と日本刀が出て来た。

「レインには銃」

 銃はベルトに装着されたホルスターに収められている。

「それから、リリィにはこの盾を」
「う、うん」

 直径三十センチメートルほどの、左腕に着けるタイプの盾を受け取ると、思ったより軽かった。鉄製ではないのかな?
 てか僕のは武器じゃなくて防具なんだけど……。

「どの武器もそのままでは使えないわ。あなた達の持つ魔力を注ぎ込まないと、ただの玩具でしかない。だけど逆に魔力を注げば、魔獣にすら効果のある強力な武器になるわ」

 魔力を注ぐ……魔法を使う時に、杖に何かが流れ出る感覚……きっとそれを再現すれば良いんだろう。

「……さて、お喋りはこのくらいね」

 そう言ってレインが拳銃を抜き、蜘蛛が飛んでいった方を向く。
 見れば、とうとうひっくり返っていた体を起こしている所だった。

「……手短に説明するわね。サンの刀は、打ち合う時は魔力を流し続けること。普段は脆いから。
 レインの銃は魔力を込めている間はいくらでも弾が出るわ。トリガーとかないし。ただ、セーフティを外さないと撃てないから注意してね。
 リリィの盾は、魔力を込めると魔力の結界が発生するわ。込めた魔力が多いほど、広く、頑丈な結界ができるから」

 母さんはそこまで早口に説明すると、フッと息を付き、顔を心配げに歪ませた。

「皆、必ず無事に勝って戻って来て」
「っ、はい!」

 図らずも三人同時に返事をし、僕たちは威嚇してくる蜘蛛に向き直った。

「いっくぞおおお!」

 サンが走り出す。レインが援護射撃を始める。

「すごい! 詠唱しなくてもこんなに連射できるなんて!」

 レインが感動したように言う。今までは気を落ち着かせて、その場で立ち尽くして詠唱……発射。という限定的な戦い方だったのだ。
 まさに革新的と言える。

 そうこうしている内にサンが蜘蛛までたどり着き、刀を振るう。

「くっそー! 硬ーい!!」

 しかし残念ながら僅かに切り傷を作る程度だった。
 だけど、あの硬い外殻に傷を付けられたと言うことは、並の魔獣だったら確実に斬り刻めると言う訳で。
 しかも今回の作戦的には、切り傷ができれば十分なのだ。

「レイン! そっちに行ったよ!」

 戦闘では、回復役や遠距離攻撃をする者から排除する……。
 あの蜘蛛はずいぶんと頭が良いみたいで、そんな戦闘のセオリーを分かっているようだった。

 お尻を向け、糸の塊を飛ばしてくるタランチュラ。

 僕はレインの前に立ち塞がると、左腕に装着した盾を構えて魔力を込めた。

 盾が輝き、僕とレインの前に巨大な……コンタクトレンズみたいな形の、半透明の結界が現れた。

 すごい! バンっと、容易く糸の弾丸を弾いた!

「あんたの相手はワタシよ!」

 糸を噴射して無防備になった蜘蛛に、サンは猛然と斬りかかった。
 繰り返される斬撃は、浅くはあるが確実に外殻に傷を付けていく。

 ……そろそろ良いだろう。
 頃合いを見計らって、今までは効かなかった種の魔法を唱えた。

「リリィ・テイク・ア・ルーツ!」

 注げるだけ魔力を注ぎ込み、より大量の種を作り出す。

「サン、行くよ!」

 大声で呼びかけ、一斉に発射する。
 素早くサイドステップで避けたサンの横を、おびただしい数の種が飛翔する。そして、ほとんど弾かれてしまったけど、確かに少なくない量の種が傷口に入り込んだ。

「スプラウト・アンド・ブルーム! いっけえええ!!」

 次々に若葉が芽生え、あっという間に蕾を付ける。そして、毛むくじゃらの蜘蛛の巨体に沢山の花を咲かせて行った。
 しかし"強い魔獣"だけあってか、花を咲かせただけでは僅かに動きを鈍らせる程度に留まった。

「サン! 全部根ごと引っこ抜くよ!!」

 僕はそう言って、レインを追随させて走り出す。サンも「よっしゃあ!」と言って、全身に花が咲いて混乱の極みにいる蜘蛛にたやすく飛び乗る。

 僕たちも飛び乗ると、三人でがむしゃらに百合を引っこ抜いていく。
 キシャア! と悲鳴を上げる蜘蛛……少し可哀想な気持ちにもなるけど、相手は魔獣。心を鬼にしてそのまま抜き続ける。

 百合を抜いた傷口から白いモヤがとめどなく溢れ出る。これが赤い血だったり、緑色の粘液だったら精神的にきつかった。
 最後の一輪を抜いたところで、三人とも一斉に離れる。

 並の魔獣ならもう消滅しているはずなのに、巨大蜘蛛は、身から魔力を漏らし続けながらも、降りてきた僕たちに敵意の目を向けてくる。しかし、見るからに瀕死の状態だ。

「レイン! トドメの一撃行くよ!」
「ええ!」

 そう言って納刀していた刀を抜くサン。
 素早くレインが、火を纏う魔法を唱える。

「喰らえ……これが新必殺技! フレイミング・スラッシュ!!」

 まるで流星のように、炎の尾を引きなら蜘蛛を断ち切る斬撃。
 見事、タランチュラの魔獣はホタルのように消えて行った。

「か、勝った……?」

 正直まだ実感がわかなかった。あんな強敵を三人で倒してしまうなんて!
 僕がふわふわとした気持ちでいると、サンが刀を構えた。

 視線の先には、苦々しい顔で睨みつけてくる魔人シュルク。
 そうだ、まだあいつがいる……!

「どうするの? あんたもやる?」
「……ちっ、こちらも魔力の消費が激しいのでな。今日のところは撤退させてもらうことにしよう」

 そう言って男は、残像を残して消えた。

「今度こそ、終わったぁ……」

 三人一斉に、膝から崩れ落ちる。
 今更ながら、校舎から割れんばかりの歓声が上がっていることに気が付いた。

 あぁ……勝ったんだ。今度こそすんなりとそう思えた。
 今までにないほど魔力を使ったせいか、どっと疲れが出て来て、体がダルかった。
 そんな中、近付いてくる人影が。

「か、母さん……」
「三人とも、お疲れ様。よく無事に勝ってくれたわね……」

 そう言って、三人纏めて抱き締められる。
 いつもの僕なら、気恥ずかしさで抵抗していただろうけど……今はそんなことがどうでも良いほどの高揚感に包まれていた。

「ほんと、よく無事で……!」

 母さんの声が震えていた。大切な人が戦っているのを、ただ見守ることしかできないのが、どれほど焦燥に駆られるのか。その思いのすべてが、今の一言に込められている気がした。



 ……しばらくそのまま抱きしめられて、ようやく放されたと思ったら、もう母さんは優しい笑顔でいた。

「さあ三人とも、もう学校も終わる時間だし、このままパーッと打ち上げに行きましょう!」
「えっ!?」

 驚いて声を上げる僕とは対象的に、わーいと喜ぶサンとレイン。
 何やら、魔獣を倒した日は、毎回母さんのおごりで打ち上げをしているらしい……。

「母さん、うち貧乏だよね……?」

 思わず問い詰めれば、やーねーと苦笑いを浮かべる母さん。

「打ち上げは、魔法少女への報酬の一部よ。青春の一時を、命がけの戦いに身を置いてもらうんだから……精神的なケアって名目で経費で落とせるのよ」
「あ、そうだったんだ……」

 ぐぬぬ、前から正体を明かしていたら、僕も美味しいご飯を食べに行けていたみたいだ……。

「あ、待って。僕、友達と話をして来ないと……」
「そう? じゃあ車で待ってるわね?」

 僕は三人の元を離れると、適当な方向に跳んでいった。
 そしてしばらく行ったところで、迂回。こっそりと学校に戻って来て、外から屋上に登る。

「あ、努」
「……お帰り、蕾」
「た、ただいま……」

 屋上には、僕の鞄を持つ努がいた。ずっと待っていてくれたのだろう。

「えっと……」

 何から話せばいいだろう。魔法少女になったこと? 今日の件での感謝……? いや……。

「ごめんなさい!」
「えっ?」

 まずは謝ることだろう。親友だと思っていた相手に、ずっと秘密にして来たこと。相談の一つもしなかったこと。

「いやいや、蕾が謝ることじゃねえよ! 考えて見れば言えるわけないもんな……男が魔法少女とか」
「うぐっ」

 その通りだ。何より恥ずかしさがヤバい。

「……でも、こうしてごまかさず言ってくれて、嬉しかった」
「努……」

 なんて良いやつなんだろう。心からそう思う。
 僕の親友は最高なやつだ。

「あと、今日、ありがとう……助かったよ」

 もし努が、ティムを連れ出してくれなかったら……。
 僕が蜘蛛の糸に見動き取れない中、サンとレインはあの魔獣にやられていただろう。

 本当に、助かった。

「へへ、そんなの気にするなよ。親友だろ?」
「うん……」

 努も親友だと思ってくれていたことに、何よりの喜びを覚えた。
 と、そこで親友が神妙な顔をした。

「二つ、聞きたいことがある」
「う、うん」

 真面目な様子。だけど、もう努に隠し事はしまい……。

「一つ目は、これから先、俺を頼ってくれるか?」
「うん……」

 僕は弱い。正直、事情を知る努が居てくれたら、とても心強い。

「そうか……。じゃあ二つ目。……その胸って本物? あと下っ」
「死ねぇ!」

 死なない程度に殴り飛ばしておいた。

「じゃあ僕打ち上げ行くことになったから! 先生には早退したって言っといてよね!」

 僕は鞄を拾い、ピクピクと痙攣する努に背を向けた。

「……今日は、本当にありがとね」

 ……そう小さく呟いて、屋上から飛び降りたのだった。
			

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