レイニー・デイズ・ストーリー
6.ツン&天然
「なぁ、34巻持ってきてくれたか?」 「いや、まだ発売してないから」 7月の半場、雨が降る放課後、文芸部の部室での会話。 「え~、次何時でるんだ?」 「うーん、……多分今月中にはでると思うけどな~」 「うぅぅ……待ちきれないぃ」 例の『定番かつ、ベタかつ、ご都合主義かつ、甘~いかつ、きらきらかつ……』の時代遅れな恋愛小説にはまり、「30冊位持ってるよ~」と、意外と続いているソレを2週間程で読みきってしまい、急に読む物が無くなってしまったのだ。 「ああああああ、暇だぁぁ」 「別の本読んだら?」 「それはイヤだ!」 「?」 「だって、今はまだこの小説 に浸っていたいから……」 「ああ、成る程」 「それに、もうすぐ出るんだろ?」 「うん、毎月20日に発売してるから」 「20日、かぁ」 「それまで1巻から読んだら? 一回読んだんだから、発売日までに読みきれるんじゃない?」 「ああ、そうだな……じゃあ明日もって……」 「と、言うと思って、もう持って来てるんだ」 「お、おぅ……」 こいつ、エスパーか……? 「今、私の事エスパーって思ったでしょ?」 「……まぁ」 「けどエスパーじゃないんだなー」 さて何でしょうと聞いて来る彼女に、分からんと告げる。 「ふっふっふー、正解は『彼氏』でしたー!」 「は?」 「だからぁ、彼女の考えている事位、お見通しって事だよ」 「そ、そうなのか……」 はっきり言われると、少し恥ずかしいと言うか…… 「あれ、どうしたの、顔真っ赤にしてー。……もしかして照れてる?」 「う、うるさい! 照れてなんかないしっ!」 あ、駄目だ。このセリフ──。 「今のは……」 そして彼女は一拍置き、 「ツンデレ頂「ツンデレ言うなっ!」」 半分ほど予想していたので、声を被せて突っ込んだ。 「なっ、私の思った事が解るなんて……エs「エスパーじゃねぇよっ!」」 「……」 「……」 「…………君も案外、私の『彼女』だね」 「…………そうだな」 彼氏の考えてる事くらいお見通しってか……。 「はい、1巻」 「ありがとう」 手渡された1巻。 「……あれ?」 「どうしたの?」 「この本……」 記憶にある1巻と、オーラが違う。 「?」 「私が前読んだやつと違わないか?」 「ん? ……あぁ、1巻は2冊持ってるから」 「何でだ?」 「いや、間違って買っちゃっただけだけど。……それより、よく違う本って分かったね?」 「そうか? だいたい誰でも分かるだろ」 「…………」 「どうした?」 「いや、普通分からないよ」 「そうか?」 「…………まさか、こんな所で天然とは」 「?」 何言ってるんだ? 「私は天然じゃないぞ?」 「…………」 それから1日、何故か微妙な顔をしていた彼氏だった。