強制女装っ娘の受難~天然人たらし親友にはたらされないからな!~
1.1話
【登場人物】
・宇佐美 晴樹
主人公。天然たらしの親友を「爆発しろ」と思いながらも面白く眺めている。
・瀬戸 幸治
親友。本人にたらしてるつもりはないが、気付いたら女子に囲まれている。ある意味主人公。
・椎名 美琴
たらされた才女。大和美人。三年生。生徒会長。
・瀬戸 愛奈
たらされた義妹。一年生。
・三浦 綾香
ハルを喜々として女装させたクラスメイト。
【本編】
「瀬戸君、生徒会室で一緒にお昼食べない?」
「お兄ちゃん、こ こ で 一緒に食べてもいい?」
「ちょっと愛奈さん? 私が先に誘ったんだけど?」
「椎名会長? 誘ったのは先でも、まだ答えてないですよね?」
「瀬戸君」
「お兄ちゃん」
二人の美少女が、一人の少年に詰め寄っている。
──のを、俺は尻目にお弁当を食べる準備をしていた。
俺の名前は宇佐美 晴樹(うさみ はるき)。どこにでもいる男子高校生だ。唯一特徴と言えるのは、顔に特徴がない、ということくらいだろう。
一方、俺の隣の席で修羅場の真っただ中にいるのは、幼いころからの付き合いの親友、瀬戸 幸治(せと こうじ)。
この男顔はいいが、勉強もスポーツもそれほど得意にしているわけではない。しかし、なぜかモテる。
最古の記憶を振り返っても、こいつは女子に囲まれていた気がする。
こいつの両親、人たらしの父親の血と、「女の子には~と言う風に接するのよ」とよく言う母親の影響らしい。
その教育のおかげか、たしかに幸治は女の子に、いや誰にでも優しい。何かトラブルに巻き込まれていたら、率先して踏み込んで優しい言葉で助け出したりする男だ。
そうして女をたらす幸治だが、しかしそこから……好意を寄せられてからが大変弱い。
幸治的には下心もなく、またモテたいとも思っていないらしい。
話を聞いたところ「恋愛ってよくわかんないし、お前と馬鹿話してる方が好きだから」と、無駄にたらしてこようとする始末。
いや俺はたらされねえぞ?
それはともかく、そうしてモテにモテて、最後にはどっちつかずな対応によりハーレムが崩壊する。それが俺の親友、瀬戸幸治という男だ。
まあ正直リア充爆発しろとしか思わないが、実際話を聞く感じこいつばかりが悪いわけではないようだし、せいぜい対岸の火事だと思って面白おかしく眺めるに限る。あとたまに茶化したりして楽しむ。
さて、結局美少女二人は幸治の席で一緒に食べることにしたらしく、先にさっさとお弁当を食べ終えた俺は机と椅子を貸して、適当に校内をぶらついてお昼休みの時間をつぶすことにした。
これが俺、宇佐美晴樹の日常だ。
「……おい晴樹」
「どうしたんだ?」
その日の下校途中。駅へと向かって歩く俺たちだったが、どうも様子がおかしい幸治がこう切り出してきた。
「いいか? まず、ぜったい変な反応したり、後ろを振り返ったりするなよ?」
「お? おう……」
そう言われると、人間振り返りたくなるものだが、我慢してそのまま歩く。
「次の曲がり角、曲がったら喫茶店あったろ? 曲がったら走って入るぞ」
「……わかった」
なにか訳があるらしい。
とりあえず指示に従い、曲がると同時に幸治と走り出し、すぐそこの喫茶店に入店した。
幸治に連れられ、奥のカウンター席──窓に背を向けるようにしてある──に座る。
幸治はスマホを取り出すと、カメラを起動してインカメにした。
「見えるか……?」
「んー、あの窓の外にいるやつか?」
「ああ……」
画面越しに見えたのは窓の外から店内を探る怪しい女。
店内の照明は温かみのある光で、要するに少し薄暗い。
明るい表から見ようと思っても反射して見えにくいようだ。
「お前……また女増やしたのか?」
「失敬な!」
つまりは、こいつがまたどっかのお嬢さんをたらし込んだ結果ストーカーと化したと言うことだろう。
「で、心当たりは?」
「…………ある」
「あるんかーい」
そこから幸治は、1ヶ月位前に酔っ払って道端に蹲る女性を介抱したというエピソードを語り始めた。
大方、制服で学校がバレ、同じ道で待ち伏せされて後を付けられたのだろう。
「で、なんで俺に?」
そう、そこが問題だ。
本人と直接話をつけるか、あまりにひどいなら警察に通報。これが鉄板だろう。
「なあ晴樹」
「うん?」
「お前って小さいよな」
殴った。
「いてぇ! あ、やめて、いたい」
「なんで俺は急に喧嘩売られたんだ?」
「あ、いや、そういう訳じゃないんだ」
身長のことはコンプレックスであると知っているくせに、わざわざ口に出したってことはなにか理由があるのだろう。
とりあえず続きを促す。
「女装してあいつと会うときに付いてきてくれないか!」
殴った。
「やめていたい」
「断る」
とまあふざけるのはこのくらいにして、こいつも深刻そうな顔してるしちゃんと話を聞くことに。
「彼女がいるから付きまとわないでくれって言いたいんだけど……」
「それこそなんで俺に頼むんだよ! 椎名先輩とか愛奈ちゃんでいいじゃねえか!」
俺が名前を挙げたのは、昼休みに幸治を取り合っていた女子二人の名前だ。
椎名 美琴(しいな みこと)、我が校の生徒会長をつとめる成績優秀な大和撫子。
瀬戸 愛奈(せと あいな)、名字からわかるように、幸治の妹だ。ただし「義理の」が付くが。
この二人が「現在の」幸治のハーレムで、この件に関してはこの二人の方が適任だろう。
「いやぁ、やっぱり相手はストーカーだし、万が一のことがあったらいけないだろう? それに頼んだ方がそのまま彼女名乗ってきそうで怖い……」
「お前それ後半が本音だろう」
「それともう一つ。もしストーカーが諦めなかったときに、正体の割れる二人だったら二次被害が起きかねない。女装した晴樹なら、正体が割れないから安全だろう?」
むむ、一理ないでもない。
人をストーカーしてくるようなやつに女子を会わせるのも怖いっちゃ怖いな。
「もちろんただとは言わない! 会うのは一回こっきりだし、何でも言うこと聞くから! この通り!」
「ん? 今何でもって……」
まあ今回の件ではこいつに非はなさそうだし、これでも幼い頃からの親友の頼みだ。
俺はそれを引き受けることにした。
──のだが、後に俺は後悔することとなる。
なんで引き受けたんだ! ちっくしょう!
そう悲鳴を上げることとなるのだが、その事を今の俺知る由もなく……。
当日を迎えることとなった。
数週間後の土曜日、俺は一人でクラスメイトのある女子の家を訪ねていた。
「いらっしゃい宇佐美くん!」
「お、お邪魔します……」
「上がって上がって?」
眼鏡をかけた彼女の名前は三浦 綾香(みうら あやか)。明るめの茶髪で陽キャな雰囲気の女子だ。
「さてさて、服は持ってきた?」
「あ、ああ……」
「じゃあ先に着替えてね。あ、私の部屋の物漁らないでね??」
「漁らないよ……」
まず俺一人だけで三浦の部屋に入る。
……ふむ、女子の部屋と聞いて思い浮かべていた可愛い可愛い感じはしない。
ベッドに机に姿見。例のぶつは机の上に並んでいる。
淡い色のカーテンと壁紙と絨毯で、部屋が柔らかい雰囲気になっている。
まあ、全体的にさっぱりとしていて小綺麗な感じだ。
とりあえず俺はさっさと服を着替えることにする。
まずバッグから取り出したるは、事前にネットで購入したレディースの衣装三点セット。
コーデ売りされていて、一つずつ揃えるより値段も安いし、コーディネートを考えなくてもいい。
一応家でサイズが合うかどうか確かめるために一度着てみたが、問題なく着れた。
セットの内容としては、白いブラウスと、ハイウエストのベージュのワイドパンツ、そして薄手のジャケットだ。
ブラウスはなんだか生地が柔らかくてぴったりするし、ワイドパンツもウエストの位置が半端なく高い。ジャケットも、制服のメンズブレザーと違って丈が短くて、女性的なラインだ。
着てみると、顔を隠せば確かに女に見える。
あれなんだな。女性的なラインって、体はもちろん、服の形の影響も大きいんだな……。
「着たぞー」
「はいはーい」
ドアの外の三浦に声をかけると、彼女はすぐに部屋に入ってきた。
そして俺の姿を見るなり。
「おー、見事に女装だね」
「だろうな……なあ、これやっぱり無理じゃね?」
なんと言っても、顔が明らかに俺だ。
印象としてはまさに、女の服を着た男だ。
「んー、まあ確かに今の段階だと宇佐美くんだけど」
言いながら俺を机の前の椅子に座らせる。
そして俺のバッグからネットを取り出し、被せてくる。
一度首まで下ろし、それから髪を纏めるように持ち上げていく。
「じゃ、じっとしててね」
そして机の上のブツ……化粧品に手を伸ばした。
それから、俺は色々なものを顔に塗りたくられ始めた。
「……そういえば、髭って生えてないの?」
最中、そう尋ねられた。
「それな、幸治……瀬戸の家って、お金持ちじゃん?」
「そうらしいね?」
「で、あいつの親せきが美容外科クリニックやってて、そこでレーザー脱毛させられたんだよ」
「へぇぇ……それで。それに肌も綺麗よねぇ」
もちろん生えてこなくなるまでには十数回、年単位で通わないといけないらしいが、レーザーを当ててから一週間から二週間で、レーザーを当てた毛は根元から抜け落ちる。
そしてその時伸びてなかった髭が生えてくるまでは無毛に近い状態が保たれるというわけで、俺は二週間くらい前に髭脱毛をさせられたのである。
まあ、今の時代髭はマイナスに見られることが多いし、俺もバイトでもしてお金が貯まったらしてみたいと思ってたし、せっかく格安で打ってもらえるということで素直に受けたのである。
あと肌がきれいなのは、美容外科クリニックで「レーザー照射後は肌が荒れたりするのでこれを使ってください」ともらったスキンケアグッズを使ってるからだろう。
「ふむむ……やっぱり、思ってた通りね」
「なにがだ……?」
メイクが進んでいくにつれて、三浦は納得したようにうんうんと頷く。
「宇佐美君って、こう……悪い言い方をすると顔に特徴がないというか、のっぺりしてるじゃない?」
「お、おう……」
「ごめんごめん! 乏してる訳じゃなくて!」
なんでも、そういったのっぺりしてて特徴がない顔の方が、化粧映えするとのことだ。
言ってしまえば、でこぼこの素材に絵を描くより、真っ平な紙の方が上手に絵が描ける……と同じことらしい。
「できた! ふふふ……これはきっと驚くわよ!」
「お、おう……テンション高いな」
しかし鏡は見せてもらえず、そのままウィッグをつけさせられる。
幸治が用意しただけあって、人毛と見分けがつかない自然なウィッグ(もしかしたら本当に人毛なのかもしれない)を被り、櫛で整えながら、地毛にアメピンで固定していく。
そしてすべてが終わり、俺はようやく姿見で自分の姿を見ることとなった。
「……え」
見て、そして思わず俺は吃驚してしまった。