死霊術師は笑わない
1.1話
どこかにある、地下室。暗い部屋の中では、数本の蝋燭のみが光源となっていた。
カッカッカッカッ──
僅かに反響するのは、軽石をぶつけるような音。
妖しく灯る炎は、風が吹いている訳でもないのに揺れている。
床に描かれているのは、円や幾何学模様が重なった陣。
その部屋の主は、白衣を着た男だった。
「ようやくだ……」
男は、絵に描いたような無表情をしており、その声もまた感情を含まない。ただただ仕事をやり切ったような、そんな色があった。
「かれこれ……30年か」
男はそっと手元の白いモノを持ち上げる。
「君が死んでから、30年。ようやく完成したよ」
白いモノ──小さな頭蓋骨を、大事そうに抱き抱えた。
「さあ──復活だ」
男が、陣の中央にその頭蓋骨を置く。そして詠唱を始めた。
『錆色の土より還りし骨よ──黒青の冥界より還りし魂よ──』
同時に、部屋の気温が下がり始める。蝋燭の炎が、寒々しい青色に変わっていく。
『──新たなる肉を得、虚ろなる眼球に光あれ──』
陣がひときわ妖しく輝き、凍てつく疾風が渦巻き、蝋燭の炎が消える。
『──さあ──目覚めよ──』
「そこまでだ!」
「!?」
いよいよ術式が発動されるかと思われたその瞬間、扉が壊れるのではないかと思うほど勢いよく開かれ、銀色の鎧兜で武装した集団が部屋に入って来たのである。
「貴様ら、ここをどこだと──」
「死霊術師アガミ・アディクト! 禁術である死霊術を研究していた罪により、A級犯とし、即死刑を執行する!」
「なっ──!?」
驚く男を無視し、銀色の武装集団は一斉に攻撃を始めた。
それは、瞬く間に終わった。
妖しくも美しく輝く陣は、それを描いた男の血によって汚れ、その豊富な魔力を吸い取った。
そして禍々しい色に変わったと思えば、一気に光を強くする。
銀色の武装集団もこれは予想外だったようで、退避ー! と叫ぶ間に、部屋は紫色の光に飲み込まれた。
その日、ある魔法学者と数人の聖騎士団員の命が終わり、新たな命が始まった。