レイニー・デイズ・ストーリー

3.GLモノ

「どうだった? 若い女子おなごの裸体は」
「お前、まだそれやってたのかよ」

 6月の半場、雨が降る放課後、文芸部の部室での会話。
 2人の少女が読んでいた本を閉じ、さっそく会話に専念する。

「少し……気恥ずかしかしかった、かな…………?」
「少しじゃなくて、かなりじゃない? 見ててカワイイって思う位顔真っ赤だったよ」
「うっ……」

 わざとらしく顔を歪めて、彼女は言う。

「まったく、これだからおとこ共は…………」
「お前そんなキャラじゃないだろ……」

 指摘すると、クスッと笑った。

「それはそうと、君が読んでるのって……」
「っ!?」
「へぇ、そーゆーの興味あるんだぁ……」

 俺は持っていた本──GLモノの小説をあわててしまう。

「ち、ちがっ! こ、コレはその……少しおもしろそうだなって、ちょっと買っただけで──」
「叶えてあげようか?」
「──だから決して興味がっ…………へ?」

 あわてる俺と変わらない笑みを浮かべる彼女。

「だから、私が恋人になってあげようかって聞いてるの」
「…………マジで?」
「マジで」

 彼女は続けて言う。

「それが君の願いなら」
(俺の……願いなら? じゃあこいつの意思は?)

 何と言ったらいいか、分からなくなる。
 すると、そんな俺の心を見透かしたように彼女は言った。

「大丈夫。私もGLやってみたいし、本当に嫌なら、ちゃんと嫌って言うし」
「そっ……か。じゃあ、お願いするかな?」
「お願いされました! じゃあ、よろしくね♪」









「──で、晴れて彼女×彼女の関係になったのはいいんだけど……」
「うん、GLって何やるんだろう? まあ、こんな時こそGL小説見てみようよ」

 言われ、しまった本を取りだし、パラパラと流し読む。

「低レベルだとやっぱり手繋いだり、腕組んだり、抱き合ったりするくらいだな」
「じゃあ中レベは?」
「うん、何か彼氏役と彼女役に別れるみたいだ」
「んでもって高レベは?」
「ああ、………って、コレは流石に言ったら駄目だろ。自重しないと」
「そうだね、流石に言えないよね」

 ──と言う訳で自重しておく。

 本を再びしまった俺に彼女は聞いてくる。

「で、何する?」
「何って?」
「だから、低レベにするか、中レベにするか、高レベに──」
「いや、高レベは駄目だろ」
「だよねぇ」
「となると、低レベか、中レベか……」
「どっちにする?」
「……ここは低レベルからだろ」
「へぇ、『から』ねぇ。目指すは高レベって訳ね」
「……人をそんなエロオヤジみたいに言うなよ」

 ごめんごめんと、あまりにいつも通りに笑う彼女を見ていると、付き合い出した実感がない。

「…………やっぱり中レベルも同時にやろうよ」

 そしていきなりのコレだ。

「その心は?」
「簡単な事だよ、君の彼女役が見たいからに決まってるじゃん」
「…………すると俺は強制的に彼女役か」
「そう!」
「まあ、………………いい、けど…………」
「間が長いよ、間が」
「当たり前だろ。即答するやつは変態だ」
「それもそうだけど……君が言うセリフ? それ」

 それもそうだな、と俺も笑う。

 すると下校時間を告げるチャイムが鳴る。
 本をしまい女物のコートを着た俺に、彼女は手を差し伸べてきた。

「? 何だ?」

 俺が困惑していると、彼女は当たり前でしょと言う。

「せっかく恋人になったんだから、手ぐらい繋ご? それに彼女をエスコートするのは彼氏の役目でしょ?」
「まあ……そうだけど」

 羞恥心から渋っていると、続けて彼女は言った。

「さぁ、お手をお取りください。お嬢様?」
「……はいはい」

 ため息を付き、どんなキャラだ? と思いながら小さくなった自分の手を彼女の手に乗っける。

「お、意外と素直!」
「うるさぃ……」
「…………  ツンデレ?」
「うるさいって!」


 本当にいつも、彼女は笑っている。
			

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