レイニー・デイズ・ストーリー
1.ある日
「俺さぁ、女体化願望があるんだ」 「……へぇ、どうして?」 6月の半場、雨が降る放課後、文芸部の部室での会話。 「いや、何と言うか、性欲の延長と言うか……強いて言えば“隣の芝生は青い”って言うか」 たった二人しかいない文芸部、部長の俺が言う。 「ふ~ん、……つまり漠然とした憧れを持ってるって事? 女の体に」 「まあ、そんなとこだ」 俺の発言に真面目に返してくるこの少女は、もう一人の文芸部員。 真っ黒な髪をストレートでたらしている彼女は、いつも楽しそうに微笑んでいる。 「でも、君が思っているより不便だと思うよ?」 もちろんそんな事言われなくても…… 「……わかってるよ、もし本当に女体化したら、すんごい生活しずらくなることは」 「ふーん……」 じゃあどうして? と無言で問いてくる彼女に簡単に説明する。 「別にオカマ……性同一性障害って訳じゃ無いんだ」 「だろうね、彼ら……彼女らは、本当に心が女の子なんだもん。でも君は、ちゃんと男の心で女になりたいって思ってるみたいだし」 「まあな……」 「…………変態?」 「ぐふっ」 言われたくない単語を言われた。 キズついた俺を見て、彼女はせらせらと笑う。 「冗談だよ、わかってる。それが男の宿命 だって事は……」 「絶対わかってて言ってるだろ、それ」 「ふふっ、どうだろうね?」 尚も楽しそうに笑う彼女を尻目に、閉じてた本を開く。 「もし……私が君を女の子にしてあげるいったら……どうする?」 再び本を閉じる。本意を確かめようと彼女の表情を窺うが、そこには変わらない笑みあるだけだ。 「……そうだな、お願いするかな」 すると少し驚いた顔をして…………また笑った。 「へぇ……それって軽い気持ちで言ってたりする?」 「いや、そんな事はない」 そう言って、俺は語りだす。 「──よく、小説の中でこう言う会話をして、……そして実際に女にされてギャーギャー騒ぐ。定番だろ?」 「うん」 「…………つまり“フラグ”だよ。こう返せば、本当に女にしてくれるかもって」 「へぇ、……じゃあ、本当に成っちゃう?女に」 「出来るものならやってみろよ」 安いフラグをわざとらしく立ててみた。 「それもフラグ?」 「もちろん」 「ふーん、……じゃあ始めるよ? 目つぶって」 本気か? と思いながらも、言われた通りに目を閉じた俺の頭に手が乗せらる感触。 そして──。 「よし! 良いよ♪」 許可もらったので、目を開ける──。 「女に成ってる…………」 少し高くなった声と共に俺の目に飛び込んで来たのは、セーラー服とスカートを身に付けた己の躰。 「へぇ、無くなってる……ブラ着けてる…………貧乳なのは、仕様か?」 感心しながら女になった事を確かめていると、彼女が珍しく不思議そうな顔をして聞いて来た。 「それは君本来の大きさだけど……あんまり驚かないんだね?」 「ああ、何かお前ならやっちゃいそうだったからな」 「もしかして、それって私の事信用してくれてるってこと?」 「どうだろうな? ……そう言えば、もう男に戻れないとか?」 気になったので、聞いてみる。 「いや、いつでも言ってくれれば、いつでも戻れるよ。もう戻る?」 「まさか。 しばらく女の体で過ごしてみるつもりだけど……親に上手く誤魔化せるかな」 「ああ、それなら大丈夫。最初から女の子だって事になってるから」 「へぇ、便利だな」 「でしょ?」 彼女は笑っていた。